死にたがり日記

体調/日々の所感/ソシャゲのこととか

白々しい

「今回は大きな事件もあって、本当に大変でしたねえ」と医者に言われた。先日の国を揺るがした事件(はっきり書くと色々思い出して動悸がしてくるので、あえてこう書く)以来、すっかり体調が悪くなってしまい、動悸や不安を抑えるためのとんぷくを貰いに言った。その1週間後の診察だった。

わたしの記憶によると、先週滑り込みで予約を取り病院に訪れた時、医者の反応は極めて事務的で、特にいたわりや気遣いの言葉はなかった。ホントウニタイヘンデシタネエ。私は頭の中で繰り返す。マニュアル通りに患者に声を掛けました、というのが見え見えのそれ。タイミングとしては、やや遅い。とっても白々しいなと思いながら適当に相槌を打つ。薬が貰えればそれでいい。それ以上のことを求めるとがっかりしてしまうというのを、4件目のこの病院でようやく悟ったのだった。

 

白々しいという言葉の意味を調べたのはなんでだったか。仕事を辞めますと言った時の、同期たちの反応を想像していた時だったかも。わたしたちは辞めたり、産休に入ったりする『仲間』に対して、お金を出しあって贈り物をする。集まれる人だけでちいさな会議室に集まり、その品物を渡し、みんなで写真を撮ってLINEで(集まらなかった人向けに)報告する。わたしはこの儀式のことが嫌いだ。というか、みんな心のどこかでは面倒だって思ってるに決まってる。言うと悪者になるから言わないだけだ。白々しいという言葉はまさにこの儀式のためにあるのではないかと思うくらい、最中の空気は微妙だ。嘘ばっかり、ぺらっぺらの言葉がその辺に舞って落ちていく。写真を撮り終えれば、みんなそそくさと持ち場へ戻っていく。たいへんあほらしい。

さてその白々しくあほらしい儀式だが、とうとう主役になる日が訪れそうだ。今月末で仕事を辞めるからである。できるだけ白々しさを浴びたくないし、逆に興味を持たれて根掘り葉掘り聞かれるのも面倒だから、今日まで辞めるということを直接誰にも言っていない(唯一、産休に入った先輩にだけ打ち明けた。新人時代から今までなにかとお世話になっていたため)。人事異動の内示がもう出るそうだから、LINEで挨拶するのもやめた。

この完全に冷めた気持ち、高校の卒業式のときとよく似ている。卒業アルバムの空白のページにメッセージを書き込みあっている人を横目で見ながら、大学の試験のことを考えていた。わたしにはほとんど友だちがいなかったから、その時間は多分ただただ暇だった。もしかするとお情けで誰かがメッセージを書いてくれていたのかもしれないが、きっとそれも、白々しさの塊なんだろう。卒業アルバムをどこへやったかは覚えていない。

待遇面から見ると悪い職場ではなかったが、社会の悪いところをギュッと凝縮したようなところだった。「社会の歯車になんかなりたくない!」と言っていた大学時代のわたしを寄ってたかって丁寧に殺し、解剖して、見事「お茶汲みの女の子」にした。もはや歯車ですらないので、乾いた笑いが漏れる。

いっときあんなに熱心に考えていた退職時のスピーチを考えるエネルギーすらない。ホントウニオセワニナリマシタ、とそれらしく言うイメトレでもするか。